自社の社員を在籍出向させるためには順序があります。ひとつずつ確実に行っていくことで、雇用の問題を解決したり、助成金を使うことで解決したりできることもあるので、突然出向の話がきても手続きができるように覚えておきましょう。

大まかなフローと個別の内容を詳しく書いていきます。

在籍出向手続きフロー

出向先の企業と労働条件について話し合う

従業員に出向先の労働条件を提示して同意を取る

助成金の手続き方法

➡参考「「雇用シェア」「従業員シェア」ってなに?

■在籍出向手続きフロー

在籍出向を行うためには、大きく分けると4つのフローがあります。

1.出向先の企業と労働条件について話し合う

従業員を出向させるためには、出向先の企業と労働条件について出向元の企業が話し合う必要があります。出向元と出向先でのいち従業員に対しての労働条件は、異なっていることがほとんどです。まずは、出向させた場合、自社の従業員がどういった労働条件の下で働くことになるのか、出向元の企業が調整をする必要があります。

また在籍出向をさせる場合、従業員は出向元の社員であり、出向元の社員でもある状態になりますので、契約関連の項目は多岐にわたっています。出向対象の社員が不安にならないよう、出向先の企業と十分に話し合って決める必要があります。

2.従業員に出向先の労働条件の提示して同意を取る

出向先の企業との話し合いが終わったら、次は従業員に出向の命令を出すのではなく、出向先の企業と決めた労働条件を従業員に提示して同意を得ます。ここで同意が得られなければ、ひとつ前のフローに戻り、出向元と出向先の企業とで従業員の納得のいく労働条件となるよう再度話し合いが必要です。

また、一方的にこの労働条件で出向しなければ解雇だというニュアンスの言葉を使うこともできません。あくまでも問題がないかどうかの確認をしてもらい、同意を得られてから次のフローに移りましょう。

3.出向契約書を作る

従業員の同意を得られたら、今度はいよいよ出向契約書を作ります。出向契約書は出向元の企業と出向先の企業の間で契約をするものです。この契約書の中には、明確な出向期間(ただし、延長・短縮の可能性についても明記しておく)、出向社員の労働時間、休憩時間、休日などの労働条件、年次有給休暇の取り扱い、懲戒処分の取り扱い、賃金の取り扱い、出向終了事由を入れるのが一般的です。

この契約書を以て、対象の従業員の在籍出向が決定します。またこの契約書に書かれている内容と、ひとつ前のフローで、従業員に提示した労働条件に違いがあってはいけません。もし労働条件に変更が出た場合には、ひとつ前のフローに戻って、対象の従業員の同意を得るようにしましょう。

4.助成金が必要な場合は助成金の申請

在籍出向の契約が完了したら、最後に助成金の申請を行います。助成金の申請は、契約完了前にはできませんので気を付けて下さい。

もし助成金が必要ではない場合は、出向はひとつ前のフローで完了しています。

以上が出向を行うためのフローです。

ではここからは、1と2と4についてさらに詳しくお伝えしていきます。

■出向先の企業と労働条件について話し合う

労働条件について話し合うことは、出向に置いてとても大切なことです。

とくに、賃金、社会保険、年次有給休暇、退職金、就業規則は、どうするのかということを決める必要があります。

例えば賃金ですと、これまで従業員に支払っていた月給が30万円(1日あたり15,000円)だとすると、出向した際にいくらにするのかということをまず決めます。例えば出向先の企業での従業員の平均月給が25万円(1日あたり12,500円)の場合、その金額に合わせるのか、上乗せするのかということも重要です。基本的に出向することで賃金が下がる場合、従業員に労働条件を提示して同意を得るのは難しいので、賃金が下がるのだとしたら他で補填をするか、何か条件を付ける必要が出てきます。

また、従業員に支払う賃金はすべて出向先が支払うのか、ということも決める必要があります。在籍出向の場合、従業員は出向元の社員でもあるので、賃金の支払いを出向元がしても問題はありません。先ほどの例を使うと、出向先の企業の平均月収が25万円(1日あたり12,500円)なので、出向先にはその分の給料を支払ってもらい、出向元が元の賃金に足りていない分の月5万円(1日当たり2,500円)を支払うという形をとるのもいいでしょう。他には、出向先の従業員の平均月給が25万円のとき、出向社員なので月給は20万円までしか支払わず、残りの金額は出向元の企業が支払うというものでも問題はありません。

出向元と出向先の従業員に支払う割合は、いくつにしなければいけないとは決められていないからです。

その他の社会保険、年次有給休暇、退職金、就業規則等も同じです。在籍出向をする場合、ここまでは出向先の企業に合わせることというような縛りはありません。そのため、労働条件は出向元と出向先の企業同士での話し合いが重要なのです。

➡「人事担当者が知っておくべき在籍出向のこと

➡「在籍出向と移籍出向(転籍)、派遣の違いを理解することで問題を回避できる

■従業員に出向先の労働条件を提示して同意を取る

従業員に出向をしてもらう場合、労働条件を提示して同意を得る必要があります。同意を得ずに、明日からB社に出社するようになどという事例を出してしまうと、場合によっては裁判に発展するほどの問題になりかねないので注意が必要です。

解雇という訳でなく、出向させるだけなのになぜ「同意」が必要なのかというと、民法に定められているからです。民法第625条第1項には「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことはできない」とあります。また労契法第14条には「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に関わる事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は無効とする」ともあり、労働者にも出向を拒否できる権利があるということも忘れてはいけません。

実際に出向において、不当出向だということでトラブルになったケースもいくつかあります。出向元と出向先の労働条件の照らし合わせが終わったら、必ず労働条件を隠すことなく提示して同意を得るようにしましょう。

また同意を得るというのも、口頭だけではなく、「出向同意書」を作成して、従業員自身に判を押してもらう必要があります。これは在籍出向の場合だけではなく、転籍出向の場合も同じです。

➡参考「人事担当者が知っておくべき在籍出向のこと

■助成金の手続き方法

助成金の手続きを行う方法は、まず初めに出向開始日よりも先に出向実施計画(変更)届を労働局に提出する必要があります。提出目安は、基本的には出向開始日の2週間前とされていますが、新型コロナウイルス感染症の特例期間は不要とされています。

上記の届けを出したら、出向を実際に行い、初めて出向した日から1か月以上6か月以下の任意で設定した期間(月単位)ごとに出向元事業主と出向先事業主が共同事業主として支給申請書を作成し、都道府県労働局またはハローワークへ提出して助成金を受け取ることができます。

また在籍出向と転籍出向どちらでも助成金の申請はできますが、助成額の割合は在籍出向をしている方が高く設定されています。さらに、中小企業と中小企業以外でも助成額の割合は違っています。

出向の助成金は現在、「産業雇用安定助成金」と「雇用調整助成金」の二つがあります。特に「産業雇用安定助成金」は出向に特化した新しい助成金です。「雇用調整助成金」は出向元にしか助成金が出ませんが、「産業雇用安定助成金」は出向元・出向先ともに助成金が出るものとなっていますので、在籍出向を行う場合はぜひ確認してみてください。

➡参考「在籍出向で使える「産業雇用安定助成金」とは?「雇用調整助成金」と何が違う?