今、「出向」が注目を浴びています。というのも、出向を導入することで、受け入れ先企業は自社の経営を圧迫せずに人員を確保できるだけではなく、出向の種類によっては国からの助成金を得ながら従業員を働かせることができるからです。

また、新型コロナウイルス感染拡大によって利益の損害を受け、人員過剰となっている企業にとっても、従業員を解雇せずに雇用し続けられるという面から、出向という働き方が今、見直されつつあります。今回は出向についてのメリット・デメリットを踏まえながら解説していきます。

目次

そもそも出向とは?
雇用シェアという新しい考え方
なぜ出向が話題?産業雇用安定助成金との関係は?
出向ならどんな場合でも助成金はでる?

■そもそも出向とは?

出向とは、どういった状態のことを指すのかご存じでしょうか。簡単に言うと、A社の従業員をB社に働きに行かせることを「出向」と言います。ただこの出向した従業員が”誰と労働契約を結んでいるのか”によって出向の種類が違うのが特徴です。出向は大きく分けると2つに分類されます。混同されやすい派遣と合わせてまとめます。

1.在籍出向

 ⇒在籍出向とは、A社と労働契約を結んだまま(A社に在籍し)、さらにB社とも労働契約を結んで働く状態を指します。在籍出向にも5つの種類(出張・派遣型、兼務型、人事異動型、休職型、移籍含みの出向)があります。出向前に出向期間が決められており、期間が終わると出向社員はB社からA社に戻り、再びA社で働くことになります。

在籍出向の契約関係

2.転籍(移籍)出向

 ⇒転籍出向とは、A社との労働契約を破棄し、B社とのみ労働契約を結ぶ(転籍する)状態を指します。転籍出向にも3つの種類(人事交流型、完全退職型、潜在的退職型)があります。また在籍出向の場合は、出向元のA社に戻ることが前提で出向しますが、転籍出向は人事交流型以外は出向元のA社に戻らないことが前提という違いもあります。

転籍出向の契約関係

3.労働者派遣

 ⇒労働者派遣は出向ではないのですが、よく混同される労働の形です。第三者から見ると、出向と同じくA社の社員をB社で働かせているため、違いが分かりづらい雇用形態の一つです。労働者派遣の場合は、A社の派遣社員をB社で働かせるのですが、派遣社員はA社と労働契約を結ぶものの、B社とは労働契約を結びません。派遣社員とB社との間にあるのは指揮命令関係のみです。派遣期間が終わると派遣社員はA社へと戻ります。

以上のような違いが、出向にはあります。

それぞれの出向の労働条件や契約書・同意書等についてはこちらで詳しく説明しています。

➡参考記事「在籍出向とは|転籍出向や派遣と比較しながらわかりやすく解説

■なぜ出向が話題?メリットと産業雇用安定助成金との関係は?

出向のメリットは、

1)出向受け入れ企業にも助成金が支給されるようになった

2)労働力を有効活用し、スキルアップの機会にできる

大きく上記2つが挙げられます。以下から詳しく説明していきます。


今出向が話題になっているのは、新型コロナウイルス感染が拡大、休業要請が長期化していることが大きく関係しています。というのも、2020年の5月から休業もしくは出向をしている企業に対して雇用調整助成金が適用されていたのですが、これが2021年4月から段階的に縮小され(※2021年4月現在。政府の方針により延長される場合があります。)、2021年2月から新しく施行された産業雇用安定助成金に切り替わるためです。

産業雇用安定助成金は、出向元と出向先の両方に対して助成金が支給される仕組みです。対象となる期間は2021年1月からで、助成される割合が雇用調整助成金よりも高いのが特徴です。ただし、雇用調整助成金では休業に対して助成金が出ていたのに対し、産業雇用安定助成金では、あくまで出向に対して助成金が出る仕組みとなっています。

雇用調整助成金が引き続き延長されずに、産業雇用安定助成金ができたのには理由があります。

  • 出向受け入れ企業にも助成金が支給されるようになった

まず第一に、産業雇用安定助成金の支給は、失業者を増やさないための措置です。雇用調整助成金では出向元には助成金が出ていましたが、出向先には助成金が出ませんでした。そのため、出向先の経営が順調だったとしても、出向社員を雇い入れるために従業員の給与負担のリスクがありました。

いっぽうで、産業雇用安定助成金では、出向先にも助成金が支給されるため、受け入れる側も出向社員を受け入れのハードルが下がるというメリットがあるのです。通常の採用費も抑えられ、人材を必要としている企業としては嬉しい制度と言えます。

出向を受け入れる企業のハードルが下がれば、出向元、出向先双方の条件に合う企業がマッチングしやすくなるため、どちらにとっても出向をさせやすい状況になります。

  • 労働力を有効活用し、スキルアップの機会にできる

第二に、雇用調整助成金では休業している企業に対して助成金を出していましたが、産業雇用安定助成金では、休業している従業員は対象外となります。休業をするということは、本来働ける人たちを働かせずに、生産性の低い状態にするということです。それよりは、人材を必要としている企業に出向をして労働力を有効活用する方が経済的に良いということで、休業に対しての助成金をなくし、その代わり出向に対しての助成金に切り替えを行っているのです。

だからこそ、今、出向が話題となっています。

➡参考記事「【図解付き】雇用調整助成金と産業雇用安定助成金の違いをわかりやすく解説

■出向ならどんな場合でも助成金はでる?

産業雇用安定助成金は出向に対して支給されるものですが、出向には冒頭でもお伝えした通り、大きく分けると二つの種類があります。それが在籍出向と転籍出向です。産業雇用安定助成金の対象はそのうちの在籍出向のみです。転籍出向では、出向元企業との雇用関係がなくなっているため、出向社員を出向元に戻すことができないので、出向元の雇用を維持した措置にはなっていません。あくまで業績が悪化し、人員過剰となった一定期間のみ出向先で仕事ができるようにするための助成金です。この助成金は出向元の業績が回復した時に、すぐに働き手を手元に戻せるためのものでもあります。

また、在籍出向でも助成金の対象外とならないものがあります。一つが子会社への出向、もう一つが関連会社ではなかったとしても企業間で出向者を交換することなどで、これらは対象外となります。産業雇用安定助成金は、あくまでも新型コロナウイルス感染拡大に伴う特例の措置であり、失業者を抑え労働力を無駄にしないための対策だからです。出向を行うことで、企業間の新しい交流が生まれたり、新しい発想が生まれたり、出向社員の育成に役立てたりと、これからの日本の労働をより良くするためのものということが前提となっています。それなのに子会社への出向では、ただ人事異動をしただけにすぎません。また、企業間で出向者を交換するのは、お互いに業績悪化による給料の支払いを国に補助してもらっているだけです。産業雇用安定助成金では、出向先の業績についても触れられているので、その辺りは条件に当てはまるかをしっかりと確認しましょう。

➡参考記事「在籍出向に必要な手続きとは?徹底解説

➡助成金解説付き資料無料ダウンロード「出向手続きマニュアル&契約書ひな形

■雇用シェアという新しい考え方

最近では、新型コロナウイルスの影響で事業が縮小し従業員過多になっているものの、解雇をしてしまうと世の中が元に戻ったときには働き手が足りなくなってしまう…という悩みを抱えている企業が多くあります。また反対に、新型コロナウイルスの影響で、需要が大幅に増え、従業員が一時的に足りなくなっている企業もある状態です。

雇用シェアは一定期間、自社の社員を他の会社に働きに行かせるというもので、いわゆる「在籍出向」を利用して従業員を共用することを言います。出向元の企業と社員の雇用関係を結んだまま、出向先の企業とも社員に雇用関係を結んだ状態で働いてもらいます。そのため、出向元の企業は社員を解雇することなく雇い続けられるというのが、雇用シェアの特徴です。

さらに自社の社員を他社に出向させている間、社員への給料は自社と出向先の会社の双方で給料を支払う割合を決めることができます。実際に新型コロナウイルスの影響で、従業員が過剰となった航空業界、ホテル業界、飲食業界では、小売業などの異業種への雇用シェアを始めています。

➡参考「「雇用シェア」「従業員シェア」ってなに?