企業において、人事異動を行うことはよくあることです。ただ、人事異動によってどういったことが問題となりうるのかを知っておくのも、人事担当者としては必要なことといえます。人事異動をスムーズに行えるよう、理解を深めておきましょう。

人事異動とは?その理由は?

人事異動の種類

人事異動は拒否できる?

モチベーションを上げる人事異動の伝え方

■人事異動とは?その理由は?

企業における「人事異動」とは、人の配置を変えるということです。会社が人事異動を行う理由としては、人材を適材適所に配置する目的があったり、人材育成をさせる目的があったり、組織の活性化を目的としたりなどがあります。

それぞれを細かく説明すると下記のとおりです。

・人材を適材適所に配置するのが目的の場合

⇒従業員側から異動願いがあって行うこともありますが、例えば企画部で仕事をしているAさんは、コミュニケーション能力が高いので、所属中の企画部よりも営業部の方が力を発揮できるかもしれない、といった考えで人事異動を行います。

・人材育成をするのが目的の場合

⇒人事異動をさせる従業員に、これまでとは違った能力も身につけてほしいという場合もあります。例えば、技術開発部にいた従業員を企画部に移動させることで、開発力だけではなく企画を考える力をつけさせ、より建設的な技術開発を行ってもらう目的の場合などです。

・組織の活性化をするのが目的の場合

⇒各々が力を発揮して働いている部署であっても、従業員の入れ替えもなく何年も同じ人たちで働いていると、どうしても作業や思考がマンネリ化してきてしまうことがありますそういったときに部署から別の部署に移動させたり、別の部署から異動させたりして人員を交換することで、より活発な意見交換や士気を上げる目的の人事異動もあります。

おおまかにわけると、以上のような理由で人事異動をすることもあります。ただ、その裏の意図として、ポジティブな人事異動とネガティブな人事異動も存在します。ポジティブな人事異動とは栄転や出世のために行うもの、ネガティブな人事異動とは問題を起こした従業員を左遷するために行うものです。また飲食店や事業所を複数運営している企業では、定期的に店舗間での管理職の変更を行う場合があります。組織の活性化という名目に近いといえるでしょう。

人事異動は、これらのように様々な理由で行います。ただ会社都合ですべてを勝手に行えるものでもありません。人事異動をしてもらう従業員には、なぜ移動をしてもらうのかの理由を明確に伝えて、納得を得てから行う必要があります。

■人事異動の種類

人事異動にも種類があります。同じ社内での部署異動もあれば、支社や支店への都道府県をまたいだ転勤、グループ会社への異動、提携会社への異動などです。

・社内での異動

 ⇒部門や部署の異動の場合

  同じビル内、同じ都道府県内にある社内での異動がこれにあたります。総務部から経理部への異動や生鮮食品担当から精肉担当に変える場合も移動に含まれます。

 ⇒転勤などを伴う事業所や海外への異動の場合

  転勤は、同じ会社内であっても勤務地の都道府県が変わる場合を指します。例えば、同じ営業部であったとしても大阪支社から福岡支社への異動の場合や東京本社からアメリカ支社への異動の場合などです。

・社外への異動

人事異動は同じ会社の中で行うものばかりではありません。グループ会社や提携会社などに移動を行う場合もあります。ただしこの場合は「出向」という言葉を使います。

 ⇒在籍出向の場合

  A社に所属している従業員をA社内で人事異動させるのではなく、グループ会社や提携会社であるB社に異動させる場合で、さらに従業員はA社・B社ともに労働契約(雇用関係)を結んだままB社で働いてもらうことを指します。また、在籍出向の場合は、出向期間が終わった後、従業員はA社に戻ることがほとんどです。

 ⇒転籍出向の場合

  転籍出向は在籍出向と同じく、A社に所属している従業員をA社内で人事異動させるのではなく、グループ会社や提携会社であるB社に異動させるというところまでは同じです。ただ転籍出向の場合、従業員はA社と労働契約(雇用関係)を破棄し、B社とだけ労働契約(雇用関係)を結んでいます。出向期間が終わった後、従業員がA社に戻る契約の場合もありますが、そのままB社で働き続ける場合もあります。

➡参考「在籍出向と移籍出向(転籍)、派遣の違いを理解することで問題を回避できる

■人事異動は拒否できる?

人事異動には法律上の制約があります。まずはそれらが守られているかどうかを確認する必要があります。また労働規約に人事異動を行う場合には労働組合との協議が必要と書かれていれば、それに従わなければいけません。その上で、会社側が従業員に対して人事異動を行う場合に、従業員が拒否できるのかどうかというと、契約書による、というのが答えです。

ただ、契約上問題のない手続きを取っていれば、従業員は人事異動に対して拒否をしにくいというのもあります。契約上は問題がなくても、従業員が人事異動に対して拒否を申し立てることも事実としてはあります。理由としては、人事異動によって転勤になった場合に、子どもがいる従業員が転校を余儀なくされる場合や、現在携わっているプロジェクトを最後まで完結させたいからなど、個々の問題があるためです。会社の規模が大きくなればなるほど、個人の問題まで考慮できなくなることもありますが、一定数拒否をする従業員もいるので、その場合はなぜ人事異動をしたくないのかの理由を聞きましょう。人事異動は双方が納得のいった形で進めるのがベストです。

また異動を不当な理由で拒否した従業員に対して、ペナルティ(出世できなくなる等)をかすことは違法ではありません。どうしても異動を拒否する従業員がいた場合、そのことについても話してみるといいでしょう。

■モチベーションを上げる人事異動の伝え方

「人事異動」という言葉に対して、ネガティブに受け取ってしまう従業員も多くありません。人事異動には確かにネガティブな理由で異動を伝えることもありますが、ポジティブな人事異動の場合もあります。会社として期待しているからこそ人事異動をしているのに、従業員の士気が落ちてしまっては意味がありません。そこで、従業員に対して人事異動の内示を伝える時のポイントをいくつかご紹介します。

・従業員と真摯に向き合う

一方的に内示を伝えるだけでは、従業員も納得してくれません。どういった経緯があり、なぜその従業員に異動をしてほしいのかということを、わかりやすい言葉で伝えてください。従業員が抱いている疑問の全てに答えることで、異動先でもモチベーションを下げずに働いてくれるはずです。

・異動先で従業員に何をしてもらいたいのかを伝える

人事異動によって、従業員は誰でも多少の困惑をします。というのも、これまでと勝手が違う場所に行くからです。内示や人事異動の指示が出た時に、異動後に自分はどんな風に働けばいいのかが見えていないため、人事異動に不満はなくても不安を抱えています。そこで大事なのが、内示を行った時に、「異動先で〇〇さんには、こういったことをしてほしい」といったミッションを伝えると、異動後の自分のすべきことが明確になるので迷うことがなく、人事異動を快く受け入れてくれます。

・人事異動をした後の従業員の未来について話す

これまでと似通った部署への異動であれば、人事異動の話が来ても受け入れやすいものですが、これまでとは全く違うところへの話が来ると従業員は困惑をします。そこで、その従業員に対して、「これまでとは全く違う部署への異動をすることによって、こういったキャリアプランを想定しているんだ」ということを伝えれば、従業員も未来の自分を想像しやすくなり、モチベーションを保ったまま異動先でも仕事をしてくれます。

以上の3点の例を挙げましたが、どの項目でも共通しているのは、人事異動をさせる従業員とのコミュニケーションです。丁寧な対話をすれば、人事異動をスムーズに遂行することができます。ぜひ心がけてみてください。