在籍出向とは

在籍出向で起こりやすい問題

在籍出向で確認しておきたいこと

在籍出向は個人の能力を伸ばすのによい?

■在籍出向とは

「出向」には「在籍出向」と「転籍出向」があり、似ているものに「派遣」があります。これらは表面上、自社にいた従業員を他社に向かわせることなのですが、形式が違っています。

その中で在籍出向は従業員が出向元(自社)と出向先(他社)との双方と労働契約を結んでおり、出向元と出向先の企業では出向契約を結んでいることが条件です。つまり、従業員はもともといた企業に在籍したまま、他の企業とも労働契約を結ぶ状態のことを「在籍出向」といいます。

従業員からすれば、どちらにも所属していることになり、それが違法とされない働き方になります。ただ、従業員に対して、これまでとは違う業務をお願いすることになる場合もあるので出向をさせる場合には事前の打ち合わせが大事です。

ただ在籍出向は、出向元の企業が従業員に通告なく勝手に指示を出すことはできません。在籍出向前には、出向元の企業から出向同意書というものに従業員自身が判を押さなければいけないためです。通常はこの出向同意書を渡される前に、出向に関するヒアリングがあり、双方で契約についての話し合いが行われます。

注意してほしいのは在籍出向が人事権の濫用になるケースもあるということ。また在籍出向がハラスメントに繋がっている可能性もあり得ます。例えば、身体的に問題を抱えている従業員に、身体を使う企業への出向命令を下したのであればパワハラに。出向命令が適切かどうか在籍出向の特性を理解してから、従業員に出向をしてもらえるかの打診をしましょう。

参考「在籍出向と移籍出向(転籍)、派遣の違いを理解することで問題を回避できる

■在籍出向で起こりやすい問題

在籍出向で起こりやすい問題は、労働条件についてです。労働条件は企業によって違っていることが多いため、従業員はどちらの条件に従えばいいのかという問題があります。

例えば、
・始業時間、就業時間(労働時間)
・休日
・休暇
・賃金関係(給与・各種手当・賞与など)
・服装規律
・表彰(何をすれば表彰に値するのか)
・懲戒(何をすれば懲戒に値するのか)
・雇用保険
・労災保険
・社会保険関係
・福利厚生施設
などは企業によって違うものです。

出向元での賃金の方が高く社会保険の条件も良かったのに、出向先では平均賃金が低く社会保障も完全ではないという可能性もあります。従業員はどちらの会社とも労働契約を結んでいるため、どちらかの条件に自分を当てはめることになります。出向元の企業としては、出向先の企業が自社に比べて元々労働条件が良くないのだから、出向に伴い労働条件も悪くなって当たり前だと思うかもしれません。ですがそれでは納得しない従業員がほとんど。在籍出向をしたら労働条件が悪くなるのであれば、出向を拒否するという権利も従業員にはあるからです。

会社都合で在籍出向をさせ労働条件が悪くなるといわれても、何も言わずに受ける従業員も中に入るかもしれませんが、在籍出向をさせてから「これは不当だ」と言われてしまうと分が悪くなる可能性もあるので注意が必要です。もちろん、賃金が減り労働時間が増えても、他の面で保障している場合もあります。労働条件が悪くなる場合には、どういった保障があるのか、どういった見返りを用意しているのかを説明してください。

何も理解しないまま、従業員に対して不当な在籍出向を強要していないかどうかを知るためには、在籍出向の特性を理解しておく必要があります。在籍出向の契約周りをしっかり整えていきましょう。

➡参考「在籍出向に必要な手続きとは?徹底解説

■在籍出向で確認しておきたいこと

在籍出向で確認をしておきたいことは、まずはどういった目的で在籍出向を打診しているのかを対象の従業員に説明したかどうかです。在籍出向の企業側の目的としては様々なパターンがあります。

例えば、
・自社ではお願いする仕事がないため、他社に行って仕事をしてもらう
・管理職にしたいが、自社ではポストが開いていないため他社で管理職についてもらう
・他業種での仕事を覚えてもらいたい
・自社では雇い続けるお金がないため外に出てもらう
など様々なことが考えられます。

在籍出向で別の会社に出向させたものの期間の決められた出向ではなく、従業員が退職するまで出向先の職場にいさせるパターンもあります。在籍出向をするときには、出向期間やどういったミッションを持って出向し、何をクリアしたら出向が終わるのかというところまで在籍出向をする前に説明しておきたいところです。

また在籍出向の場合、出向をしている間に、社長や役員の交代により出向元の労働条件が変わったり、出向先の労働条件が変わったりすることもあります。その場合には、在籍出向の条件が変わるのか否かという点についても、事前に話をしておくと従業員は安心して出向することができます。

条件面で言うと、在籍出向をして期限が来たら出向元に戻る場合、戻ったときにはどういった労働条件になるのか(賃金が上がる、役職が上がる、部署が変わるなど)というところも事前に説明をしておきましょう。そうすることで、従業員の出向先での労働意欲にも変化が出るはずです。

■在籍出向先で従業員がトラブルに遭った場合

在籍出向には行く前には想定していなかったトラブルが起こる可能性もあります。出向元である自社では何のトラブルも起こしたことのない従業員であっても、出向先では周りの人との折り合いが悪く問題を抱えることもあるということです。また出向先での企業で問題が発生し、それに巻き込まれてしまうケースもあるでしょう。

そうなったときに、在籍出向中の従業員はどうなるのかというと、在籍出向の契約書に記されている通りのことを行います。例えば、問題が起きた場合は出向元に戻ると書かれている場合もありますし、出向先にて懲戒処罰を受けることになり退職を余儀なくされる場合もあります。

トラブルに遭った場合についての項目は、自社で勤務をしている時に、全くトラブルを起こしたことのない従業員の場合に見落としがちな項目の一つです。今までと労働環境が変わるので、これまでと同じであるとは考えない方がいいでしょう。もしもの時に備えて、在籍出向をさせる場合には、十分に契約条件を作り込んでおいてください。

またトラブルの項目について曖昧に書いていると、後々従業員側や出向先の企業からつかれてしまうこともあるので、契約書を作った時には、これはこういう意味だということを在籍出向をさせる前に従業員と話し合っていた方がいいでしょう。そうすれば、トラブルの連鎖は止めることができます。

■在籍出向は個人の能力を伸ばすのによい?

特に問題を抱えていない在籍出向の場合、個人の能力を伸ばすのには最適の方法だと唱えている人もいます。それは出向先でどういった仕事をするのかにもよるのですが、一つの企業で働き続けるよりは、全く違う企業で一定期間限定で身を置くと出向元の企業を客観的に見ることができるようになり、企業にどう貢献していけばいいのかがわかるようになるからです。

それには、在籍出向をする人の性格や特性もとても重要です。様々なことを吸収して実行できる性質を持っているのであれば、そのことを本人に伝えてから在籍出向をしてもらうのもいいでしょう。その言葉が、従業員のやる気を引き出すことにもつながります。

在籍出向にはメリットもデメリットもどちらもありますが、メリットの方を大きくするのであれば、従業員にきちんと在籍出向をさせる理由を説明することです。そのためには人事を担当する人が在籍出向についての深い理解が必要といえるでしょう。

➡参考「出向でスキルアップや出世も?左遷のイメージは間違い!さまざまなパターンを事例成功事例で不安を解消