在籍出向とは

給料負担は出向元か出向先かは“出向契約”で決まる

在籍出向の場合の保険は?

在籍出向時の退職金や年金、源泉徴収は?

■在籍出向とは

出向でまず抑えておかなければいけないのは、在籍出向が出向元、出向先、出向社員の三者がどういった契約をしているのかということです。また在籍出向と似た形式を取っている移籍出向、派遣と区別できているのかも重要です。ここが理解できていると、自然と在籍出向の場合に給料を支払うのは誰なのかが見えてきます。

まず出向元、出向先、働き手の関係を整理していきましょう。

  • 在籍出向

出向元と出向社員の間、出向先と出向社員の間にはそれぞれ労働契約が結ばれ、出向元と出向先の間には出向契約が結ばれています。

  • 移籍出向(転籍)

出向元と出向社員の間にあった労働契約が解除。出向先と出向社員の間のみ労働契約が結ばれ、出向元と出向先の間には転籍契約が結ばれています。

  • 派遣

出向元と派遣社員の間には労働契約がありますが、出向先と派遣社員の間には労働契約はありません。出向元と出向先の間には労働者派遣契約が結ばれています。

このように、一見すると自社にいた働き手を他社に働きに行かせるという形は同じなのですが、働き手と労働契約を結んでいる企業が違うというのが、一番理解しておきたい点です。

在籍出向の場合、出向社員は出向元と出向先の両方と労働契約を結んでいることになります。それがどういうことを意味するのか、次の項目から細かく見ていきましょう。

➡参考「在籍出向と移籍出向(転籍)、派遣の違いを理解することで問題を回避できる

➡参考「「雇用シェア」「従業員シェア」ってなに?

■給料負担は出向元か出向先かは“出向契約”で決まる

在籍出向を行う場合、確認しておかなければいけない重要項目がいくつかあります。そのうちの一つが出向社員の給料は誰が出すのかというところです。

働き手に給料を払うのは、労働契約を結んでいる会社です。在籍出向の場合、出向社員は出向元、出向先のどちらとも労働契約を結んでいるので、どちらも出向社員に支払うことは可能です。つまり、出向元と出向先で契約を取り交わす「出向契約」において、出向社員が働いた分を、どちらの企業が振り込むのかを決めればいいだけということになります。出向元が引き続き振り込んでも、出向先が振り込んでも、どちらでも法律的には問題はありません。

また出向先の企業での平均賃金が出向元より少なく、出向社員が出向することで賃金が減ってしまう場合、出向先が出向社員の賃金を出向元に入金し、その賃金にプラスした状態で出向元が出向社員に支払うというケースもあります。

それ以外にも、出向先の企業と出向元の企業の平均賃金が変わらず、出向社員に支払う金額に差異がなかったとしても、出向先の企業が出向元の企業に給料を入金し、出向元の企業が出向社員に支払うという場合もあります。これは給料を支払う企業が変わることで、他の事務的なところも変更しなければいけなくなるため、それを抑えるためにしていることです。

ただ、ここで注意をしなくてはいけないのが、出向先の企業が出向元の企業に支払った金額はすべて出向社員の給料として支払わなければいけないということです。もし、出向先の企業が支払った金額より少ない金額を出向元の企業が出向社員に支払っていると、出向先の企業は出向社員だけではなく、出向元の企業にもお金を渡しているということになり、法律的に違反することになります。この部分だけはしっかり念頭に置いておきましょう。

また出向社員が出向先で働いていても、出向先の企業は給料負担をせず、出向元の企業が出向社員に対して給料負担をするという場合もあります。在籍出向に関しては、出向先が払うという決まりがないということです。

在籍出向を行う場合は、契約によってどちらの企業が給料負担をするのか、給料を振り込むのかを決められるので、出向元の企業と出向先の企業とで話し合う必要があります。

➡参考「在籍出向に必要な手続きとは?徹底解説

■在籍出向の場合の保険は?

出向社員からすると、在籍出向を行うことで、社会保険各種がどうなるのかというところも気になる部分です。先ほどの給与に関しても同じですが、在籍出向を行う際には「出向規定」というものを作ります。そこに給与や社会保険の項目をそれぞれ作り、どちらの会社が支払うのかを書くことになっています。

つまり、在籍出向の場合は社会保険も、出向元、出向先のどちらが支払ってもいいということです。在籍出向は、出向元、出向先、出向社員の3者が納得していれば、あとは出向規定に記すだけで法律的な問題はありません。

ただし健康保険など、出向元と出向先とで種類の違うところに加盟している場合は注意が必要です。支払うのが出向先の場合、出向社員が加盟する健康保険も別のものになるので、出向社員に説明を事前にしておいたほうがいいでしょう。

■在籍出向時の退職金や年金、源泉徴収は?

次に源泉徴収についてですが、源泉徴収は給料を支払うことになっている側が基本的には行います。ただし、出向先が給料を出向元に入れて、出向元が出向社員に入金をしている場合は、源泉徴収は出向元が行うことがほとんどです。

また退職金と年金(厚生年金などの年金は社会保険に含まれますが、性質が退職金と似ているため、こちらの項目に入れています)についてですが、これらは積み立てによって金額が変わります。そのため出向規約を作るときには気を付けておきたいところです。

在籍出向をする場合でも、例えば3年で出向社員を出向元に戻すことを決めている場合、退職金や年金は出向元が払うとした方が、あとで混乱を起こさずに済みます。ただ在籍出向でも出向先で定年退職を迎えたり、もともと一方通行の在籍出向をさせたりという場合もあります。その場合は、退職金や年金は出向先に支払ってもらってもいいでしょう。

出向社員が出向先で退職し、出向先で出向社員の退職金を徴収していた場合は、出向元で貯めていた退職金は出向社員が退職を決めた時に支払うものです。転籍であれば、出向社員が出向先に行くことが決まった時点で退職金を支払いますが、在籍出向の場合は出向元ともまだ労働契約を結んでいる状態のため退職扱いにならず、支払う義務はありません。ただ、退職金の積み立てが出向先になって、何年も出向先で働いていた場合、出向元でも退職金を貯めていたことを出向社員自身が忘れている場合があります。それを出向元の企業が何も言われなかったから支払わないとなると、後々問題になるので注意が必要です。

また年金についてですが、厚生年金だけであれば、出向元、出向先のどちらが負担をしていても問題はありません。問題なのは、企業によって厚生年金以外の年金を積み立てている場合です。出向元には厚生年金以外の年金があり、出向先にはない場合、出向期間だけ積み立てておらず、実際に退職をした時に他の人よりも年金の金額が少額になるというのを出向社員が納得できるかどうか、という点も重要です。また反対に、出向先にだけ特別な年金システムがあり、10年間働いたのに年金は出向元が払っていたので加入できなかったというのも、出向社員が納得できるかどうかというのも問題になります。

退職金や年金については、3者で話し合う必要があります。

➡参考「人事担当者が知っておくべき在籍出向のこと

■在籍出向をさせる時にはすべてを決めておくこと

在籍出向は、出向社員が出向元出向先ともに所属していることになるので、出向規約で仕組みを作りこむ必要があります。

規約を作るときには、チェックリストを作って漏れがないようにするのがいいでしょう。