従業員の出向を考える時、在籍出向にすべきか、転籍出向(移籍出向)にするべきか、人事としては悩むべき点でもあります。どちらも「出向」であることは変わらないのですが、在籍出向と転籍出向(移籍出向)では明らかに違っている点があり、それぞれにメリット・デメリットがあることも忘れてはいけないところです。企業としてどちらがいいのかを判断するために、転籍出向(移籍出向)について詳しく見ていきましょう。

■在籍出向と転籍出向(移籍出向)の違い

在籍出向と転籍出向の大きな違いは、出向社員が誰と労働契約を結んでいるかです。

在籍出向の場合は、出向社員は出向元と出向先の企業の両社と労働契約を結んでいますが、転籍出向の場合は出向先の企業としか出向社員は労働契約を結んでいません。つまり転籍出向の場合は、出向をした時点で出向元の企業と出向社員の間にあった労働契約が破棄されるということです。

労働契約が破棄されるということは、その企業と社員との間にあった雇用関係がなくなります。転籍出向であっても、出向元の企業に出向社員が100パーセント戻ってこないというわけではありません(グループ会社間での転籍出向の場合は違うケースもあります)が、その時にはまた別の契約を結ぶ必要が出てきます。

それに対して、出向元の企業と出向社員の間に労働契約が結ばれた状態で出向を行う在籍出向の場合は、転籍出向とは違い一定の期間が過ぎたら出向社員は出向先から出向元に戻ってくることが前提です。在籍出向の契約を結ぶときにも、〇〇年〇〇月〇〇日に出向元の企業へ戻るということを明記する必要があります。

このように、在籍出向と転籍出向では、労働契約を誰と結んでいるのか、出向社員が出向元の企業に戻ることが前提になっているのか、というところに大きな違いがあります。

■転籍出向のメリット・デメリット

出向元の企業からの視点で見る転籍出向を行う場合のメリット・デメリットはというと、

メリット

  • 企業の財政負担をおさえることができる
  • 雇用過多になっている場合に整理をすることができる
  • 解雇とは異なるため、社員からの印象悪化の回避又は社員を路頭に迷わせずに済む
  • 転籍出向を行った後で、転籍社員が出向元に戻りたいと言っても応じる義務はない
  • 特約がない限り転籍後に出向先の企業が業務破綻を起こし倒産したとしても、出向元の企業が転籍社員に対して何か保証をする必要はない

デメリット

  • 帰任が前提にないため、転籍出向させる場合は企業の業績が戻ったときに痛手になることがある
  • 転籍出向が決まったはずなのに、出向先が直前になって転籍社員の受け入れを断ってきた場合、転籍社員を再び出向元の企業で受け入れなければいけない
  • 転籍社員が転籍することによって業務が回らなくなっても、出向元の企業の都合で戻るように命令をすることができない

以上のようなメリット・デメリットがあります。これらのことを念頭に置いて、転籍出向をさせるかどうかを考えてみてください。

➡参考「在籍出向と移籍出向(転籍)、派遣の違いを理解することで問題を回避できる

■転籍出向は拒否できる?

転籍出向を命令した社員に拒否権はあります。出向元の就業規則の中に「転籍出向を命じる場合もある」というようなことが明記されていたとしても、転籍条件を書いたものを転籍予定の社員に見せて同意を得る必要があります。就業規則に書いてあるからといって、同意を得る必要はないと考えるのは間違いです。

また転籍出向を拒否した社員に対して、企業が何らかの懲戒処分を下すことは労働法で禁止されています。企業側が、社員に対して強い態度で伝えたり、断ることのできない雰囲気で命令を出すこともしてはいけません。

社員に転籍出向をさせたいのであれば、社員が首を縦に振るような労働条件で働けるように、出向元の企業が出向先の企業と交渉する必要があります。転籍を打診された社員からすると、今の会社を辞めて別の会社に転職をするのと同じです。転職先の会社が気に入らなければ、拒否をするのは当たり前だという認識を持たなくてはいけません。企業によっては出向命令を配属命令と同じだという認識を持っている場合もありますが、その点を強く意識しましょう。

転籍出向を命じた社員が拒否したにも関わらず無理やり転籍を進めた場合、社員が裁判を起こすと企業が負けてしまう事例もありますので気を付けて下さい。また業績悪化の為に転籍出向を考え社員に同意を求めたことに対し、社員が同意しなかった場合も、企業としてその社員を解雇することはできません。企業がどんな状態であっても、転籍出向は転籍予定の社員が同意しなければ進めることはできないように労働法で定められています。

■転籍出向の時に退職金は発生する?

転籍出向を行う場合、転籍社員と出向元の企業との間で雇用関係が解除されるため、就業規則に則って退職金は発生します。ただ、退職金をいつ支払うのかは決められていません。

例えば、転籍出向が決まり、出向元と転籍社員の間にある労働契約が解除された時点で、転籍社員に対して退職金を支払う場合もありますし、転籍社員が出向先を退職した時に、出向元と出向先の両方の会社から既定の退職金を支払うという形でも問題ありません。

退職金を支払うタイミングに違いがあるだけで、労働契約解除後すぐであっても、出向先を退職した後であっても、出向元が転籍社員に支払う退職金の金額に変わりはないということだけは覚えておきましょう。

■転籍出向の場合の給与負担・社会保険・労働条件は?

最後に、転籍出向を行った場合の給料負担などはどうなるのかというと、基本的には出向先の企業が負担します。

転籍社員の給料・社会保険は、転籍社員と労働契約を結んでいる出向先の企業が行うものだからです。出向元の企業が負担をすることはありません。

労働条件に関しては、出向元の労働条件がそのまま移行するのではなく、出向先の労働条件が転籍社員の労働条件となります。ただし、出向元と出向先とで労働条件が違っており、転籍社員が不利益な状況になる場合は別です。例えば、出向元であれば月給30万円だったのに対し、出向先では月給25万円までしか出せないとなった場合などです。もしその条件のまま、転籍予定の社員に確認してもらっても同意を得ることはできないでしょう。月給が5万円減ることに対しての補填をどうするのか、他に転籍予定の社員にとってメリットとなることを提示する必要があります。

➡参考「出向を“受け入れる”企業が知っておきたいこと

給与負担・社会保険・労働条件などは、すべて出向先マターではありますが、転籍契約を成立させるために、出向元の企業がよく出向先の企業と話し合いを行わなければいけないところでもあります。そして、どうしても出向先の企業が労働条件の改善に限度があるとなった場合に、出向元の企業として、転籍予定の社員に何ができるのかを検討して提示する必要もあります。

在籍出向であれば、出向先の方が労働条件が悪かったとしても、それを補填するために出向元の企業がプラスで給料を上乗せして出向社員に支払うことができますが、転籍出向ではそれができないという問題もあります。転籍予定の社員が転籍の同意書を見た時に頷けるような条件を、出向元の企業がまとめられるかが転籍出向の難しさともいえるでしょう。

➡「在籍出向に関する契約書や同意書の書き方は?ひな形無料ダウンロード

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