最近「出向」という言葉をよく耳にしませんか?テレビドラマや映画で描かれるイメージから、左遷などのネガティブな印象を持っている方も多くいらっしゃるかもしれません。

しかし、本来「出向」とは他企業へ異動することを指し、必ずしも悪い意味ではありません。以前のイメージとは違う今話題の「出向」とはどういうものなのでしょうか。どうして注目されるようになったのかを、ご説明します。

出向はメリットがたくさん!出向=左遷は間違い

出向の成功事例を知って不安を解消

■出向はメリットがたくさん!出向=左遷は間違い

まず出向のメリットを説明する前に、簡単に出向の種類について改めて整理すると、出向には二種類あります。

・在籍出向とは

 出向元、出向先と労働契約を結んだ出向社員が出向先で働き、出向期間を終えると出向元に戻って仕事をするケース。

・転籍(移籍)出向とは

 出向元との労働者契約を破棄し、出向先とだけ労働者契約を結び、出向社員は出向先で働き続けるケース。基本的に、出向社員が出向元に戻ることはありません。

出向とよく似た形を取っているのが労働者派遣です。労働者派遣の場合派遣社員は派遣元と労働契約を結び派遣先とは労働契約を結びません。派遣先と派遣社員の間にあるのは指揮命令関係のみです。

といった仕組みになっています。

➡参考「在籍出向と移籍出向(転籍)、派遣の違いを理解することで問題を回避できる

出向というと、以前は本社で働いていた人を地方や海外の支社に異動させることであったり、銀行が業績の芳しくない融資先に出向させたりということが行われていたので、「出向」=「左遷」というイメージが付いたのではないかと考えられます。このイメージの理由の大半は、「転籍出向」が多かったため、片道切符として捉えられていたことが影響しています。

ですが最近注目されている出向は、左遷とは全く関係のない「在籍出向」の形態です。子会社や関連会社へ「転籍出向」するのではなく、提携を結んでいない企業へ、元の企業に籍を置いたまま出向するのです。これが現在見直されつつある「出向」です。

出向を行うことで、出向社員はこれまでとは全く違うところに身を置くことになるので、出向元に勤めているだけでは得られない新しいスキルが身に着いたり、スキルアップを図ったりすることができます。場合によっては出世に繋がることもあります。

さらに新型コロナウイルス感染拡大によって影響を受けている企業には、社員の出向に「産業雇用安定助成金」が適用されます。ただし、助成金を取得するには在籍出向でなければならないという縛りや様々な条件もありますが、条件を満たすことができれば、人員過多になっている企業にとっても、人手不足で人員を受け入れる企業にとっても、もちろん社員にとっても、メリットが生まれるのです。

➡参考「在籍出向で使える「産業雇用安定助成金」とは?「雇用調整助成金」と何が違う?

■出向の成功事例を知って不安を解消

社員に出向をさせることが左遷ではないと言いつつも、出向を成功させた企業にはどのようなものがあるのかは気になりますよね。今回は弊社がお手伝いをした企業の出向の実際の成功事例を3つご紹介します。


  • 事例1

出向元:50~60店舗を展開する和食チェーンレストラン

出向先:キッチンカービジネスの企業

店舗数が多いということもあり、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、集客がなかなか難しかった和食チェーンレストランでは店舗を休業をしていたのですが、ホール・キッチンの経験がある35歳の社員を出向させました。出向元の企業が、もともとキッチンカービジネスに興味があり、今後フランチャイズ展開することも含めて、業務提携の可能性も視野に入れての前向きな出向です。


  • 事例2

出向元:高単価和食チェーン(30店舗程度)

出向先:スーパーマーケット(精肉業務、お惣菜、寿司担当)

高単価和食チェーンで働いていた48歳の板前と41歳の和食キッチン経験者を、新型コロナウイルス感染拡大を受けて人手不足となっているスーパーマーケットに出向させています。精肉業務の場合は、1日でかなりの数の肉をさばかなければいけませんし、お惣菜はかなりの種類の料理を作らなければいけません。その管理スキルや調理技術は板前であっても難しいもの。出向元はレベルアップのために出向してほしいと伝え、出向社員側も快諾し日々楽しく働いているそうです。


  • 事例3

輩出元:居酒屋、カフェ等を100店舗程度を都内で展開している企業

輩出先:開店オンライン事業を取り扱う企業

居酒屋、カフェなど様々な店舗を運営している飲食関連の企業が、広報業務担当として内定を出していた女性がいました。しかし、コロナの影響で入社が延期せざるを得ない状況になってしまったため、飲食店を相手にしたIT企業でインタビュアーとして働いてもらうという形を取っている企業もあります。この場合は出向ではなく、IT企業へ有期雇用という形を取っており、有期雇用期間が終わった後で出向元に入社するという形になっています。とはいえ、飲食企業での広報業務をするのであれば、他の飲食店に対してインタビューを行っていくのは、その社員にとってインタビュー力を鍛えることになるので、こちらも前向きな形といえるでしょう。


出向には左遷のようなマイナスなイメージが付きまとってしまっていますが、今回ご紹介した3つの成功事例のようなパターンもあります。こうした事例は、他にもまだまだありますし、これからも増えていくでしょう。

新型コロナウイルスが影響して休業という形を取っているのであれば、これをチャンスの時期だととらえて、国から助成金を貰いながら、社員のスキルアップのために在籍出向を行うのも一つの手です。世の中が落ち着いて、以前のように働けるようになったときには、パワーアップした社員と一緒に会社を盛り上げていくというのはいかがでしょうか?