■在籍出向と移籍出向(転籍)の違い

在籍出向も移籍出向(転籍という場合もある)は、出向元、出向先、従業員の3社の関係があるものですが、その内容は全く違っています。

企業として一番押さえておきたいのが労働契約まわりについてです。

在籍出向では、出向元と出向先ともに従業員と労働契約を結んでいる必要があり、出向元と出向先の間では出向契約が結ばれています。従業員は、在籍出向をして出向先で働くようになったとしても、出向元の企業との労働契約を結んだままになっているので、出向期間やミッションを終えることができれば、また出向元に戻ってくることが基本的には決まっています。

それに対して移籍出向(転籍)は、出向元と従業員の間にあった労働契約を解除し、出向先と従業員が労働契約を結び、出向元と出向先の間に転籍契約を結ぶ必要があります。さらにこれらの契約をまとめる役割を持っているのが出向元の企業です。出向元が従業員に対して移籍出向(転籍)をしてほしいと伝え、労働契約を解除したものの、出向先が出向元と転籍契約をまとめ終える前に出向先と従業員の間の労働契約を破棄した場合、従業員が出向元との労働契約解除に判を押していたとしても、労働契約解除は無効扱いになります。

また、移籍出向(転籍)の場合、3者の契約が無事成立し、従業員が出向先に勤務したあと、在籍出向のように、いずれは出向元に戻るということは基本的にはありません。場合によっては、移籍出向(転籍)でも出向元に戻す場合もありますが、それは移籍出向(転籍)とは別に約束をしていた場合のみです。

在籍出向は、出向しても従業員は出向元の従業員であることが変わらないのに対し、移籍出向(転籍)は、出向をすれば従業員は出向元の従業員ではなくなるということを理解しておかなければいけません。

■包括的な同意と個人の個別の同意の必要性

在籍出向と移籍出向(転籍)では、その性質が違うことを説明しました。企業にとっても従業員にとっても、在籍と移籍では同じ出向ではありません。そのため、企業が従業員に対して出向の同意を得る時にも内容が異なってきます。

在籍出向の場合、出向元の企業が従業員に対して出向の打診をし包括的な同意を得られれば、従業員に出向をさせることが可能です。企業によっては出向の打診をせず、出向命令という形で従業員に伝える場合もあります。

ですが移籍出向(転籍)の場合は、出向元の企業が従業員に対して打診をして、細かなところまで伝えたうえでの個人の個別の同意を必要とします。在籍出向のように出向命令を出すことはできませんし、従業員が出向内容を見て同意をしないという権利も持っています。また企業側で間違えがちなことは、就業規則の中に移籍出向(転籍)をさせることもあるということが書かれていたとしても、従業員に個別の同意を必要とするというところです。就業規則に書かれているので、個別の同意は不要だと判断し、移籍出向(転籍)の話を進めてしまうと、従業員から訴えられる可能性もあるので注意が必要です。

在籍出向と移籍出向(転籍)では、個別の同意の重要性が全く違っています。ひとつ前の項目でも、お伝えしましたが在籍出向は出向をしても出向元に戻ってくることが前提となっているため、従業員にとってもそこまで重いものではありません。ですが、移籍出向(転籍)は、出向元と出向先に転籍契約が結ばれているとはいえ、従業員からすると転職をしている形と似ています。移籍出向(転籍)が会社都合のものであれば、従業員は会社の命令によって転職を強いられているということになりますので、法律として働き手を守るために個人の同意を必要としているということです。

企業側としては、どう違うのかを理解したうえでの在籍出向と移籍出向(転籍)の指示を従業員に出す必要があります。

■在籍出向と移籍出向(転籍)で出向前に決めておかなければいけないことの違い

在籍出向と移籍出向(転籍)では、出向の性質が全く異なるため、事前に決めておかなければいけないことも違っています。

在籍出向の場合は、従業員は出向元と出向先の両方と労働契約を結ぶことになるので、給与、賞与、労働時間、休日、就業規則など、どちらの企業のものが該当するのかということを決めておく必要があります。また、出向先のものに準じるとする場合には、出向元との違いに従業員が納得するように出向元の企業が調整をしなければいけません。

それに対して移籍出向(転籍)の場合は、従業員は出向先としか労働契約を結んでいない状態になるので、給与、賞与、労働時間、休日、就業規則などはすべて出向先に準じることになります。この場合も、出向元とは条件が異なる場合には、出向元の企業が従業員の納得を得られるように調整する必要があります。

また在籍出向とは違い、移籍出向(転籍)との労働契約が解除されるので、有給休暇や退職金についても、どういった扱いにするのかを従業員に提示しなければいけません。転籍後、有給休暇が出向元の日数がそのまま引き継がれるのであれば問題はありませんが、引き継がれない場合は、残っている有給休暇をどう補填するのかが問われます。退職金も、出向元に引き継がれるのであれば問題ありませんが、引き継がれない場合は移籍出向(転籍)と同時に、それまでの金額を従業員に支払うなどの対応が必要となってきます。

また在籍出向は出向元との労働契約が続いているので必要ありませんが、移籍出向(転籍)では出向元との労働契約が解除されているので、社会保険などの対応も必要です。従業員が離職した場合と同じ作業があるということも忘れないでおきたい点です

■在籍出向と移籍出向(転籍)に起こりうる問題点

在籍出向、移籍出向(転籍)では起こりうる問題点も変わってきます。

在籍出向の場合に起こりやすい問題点は、出向元と出向先の労働条件の違いを従業員にどう説明をするかという点や、出向期間、出向理由の説明をするときです。基本的には契約周りでの問題が起こりやすいので、その辺りをどうするかを決めておけば大丈夫でしょう。

それに対して移籍出向(転籍)は、在籍出向とは違い出向すれば、出向元との労働契約が解除されるという点が一番大きな違いです。そのため、起こりうる問題も在籍出向とは異なってきます。一番初めの項目にも触れていることですが、出向先が従業員との労働契約を解除した場合の問題です。ただし、出向元として責任があるのは、従業員が出向先で働く前までのところです。

例えば、出向元と出向先での転籍契約をしたにもかかわらず、出向先が従業員を受け入れる前に、やはり契約を破棄したいと言い出すことは出向先の権利として持っています。その時点で、出向元と従業員の間に話し合いによる円満労働契約解除の処理が終わっていたとしても、この労働契約解除は無効となり、出向元の企業は従業員を雇い続ける義務が発生します。ですが、従業員が出向先の企業で働き始めたものの、出向先の企業が就業規則にのっとった状態で従業員を解雇した場合は、出向元の企業には何の責任もありません。というのが、移籍出向(転籍)には起こりうる問題です。

もしこれが、在籍出向の場合だと、出向先の企業で働いていた従業員に解雇命令が出されたとしても、出向元の企業に戻ることになります。出向先で解雇になったからと言って、出向元でも連動して解雇にするということはできませんので注意が必要です。 在籍出向と移籍出向(転籍)では、従業員との契約状況が違いますので、そこを混同せずにしっかり把握した状態で出向の検討をするようにしましょう。

■在籍出向と派遣の違い

在籍出向と派遣は、どちらも3者の関係が存在しています。A社、A社に所属しているBさん、A社に所属しているBさんがこれから働きに行くC社。これらの3者がどことどんな契約をしているのかの違いがあります。

在籍出向の場合、A社とBさん、C社とBさんは労働契約、つまり雇用関係にあり、A社とC社は出向契約を結んでいますが、派遣の場合はA社とBさんは労働契約を結んでいますが、C社とBさんは労働契約を結びません。ただC社に与えられているのは指揮命令だけです。この指揮命令というのは、Bさんに対して、こういう仕事をしてくださいと指示を出す権利ということです。また派遣の場合、A社とC社が結ぶ契約は出向契約ではなく労働者派遣契約という名前のものになります。

ここからわかることは、従業員であるBさんは在籍出向の場合も派遣の場合もA社とは労働契約を結んでいますが、C社は在籍出向の場合は労働契約を結んでいても、派遣の場合には結んでいないという違いがあります。派遣になると、C社で働いていてもC社で雇われているわけではないということが、重要なポイントです。

ただこれらは、外から見るとA社からやってきたBさんがC社で働いているというだけなので、その違いはわかりません。働いているBさんも結局C社で働くなら同じだと思う可能性もあります。ですが企業としては、全く違うことをBさんに行ってもらっているので、違いを理解することはとても大事です。

■細かく見ると他にも違う点がある

在籍出向と派遣では他にも違う点がいくつもあります。例えば、C社でBさんに9時から18時まで働いてもらっていたものの、C社の方針が変わり全員が10時から19時までの勤務時間に変わった場合、C社はBさんに伝えて勤務時間を変えることができるでしょうか。

在籍出向の場合は可能です。ただし、BさんはC社の社員であると同時に、A社の社員でもあるため、C社はA社にも断りを入れる必要があります。C社は、A社とBさんの双方の意見を聞いてから勤務時間を変更することができるようになります。

ですが派遣の場合は手続きの形が違います。C社がBさんに対して直接労働時間を変更したいということを聞くこと自体がNGです。C社がBさんに対して持っている権利は仕事内容の指令権だけだからです。C社が直接Bさんを雇っているわけではないので、労働時間の変更に応じるように聞けないというわけです。手続きの仕方としては、C社からA社に対して労働時間の打診をし、A社がBさんに対して労働時間が変わるけれど問題はないかどうかを聞くというのが正しい方法です。A社がBさんにヒアリングをして、BさんがOKだと言えば、A社がC社に対してOKと伝え、C社はようやくBさんを10時から19時までの労働時間に変更することができます。

仕事内容以外の変更が生じた場合には、在籍出向と派遣では手続きの方法が違うので混同しないように注意が必要です。

この他にも、期間や給料を支払う会社にも違いはあります。

期間であれば、在籍出向の場合は1年以上という長期が一般的です。それに対して派遣であれば、契約更新はあるものの短期であれば1か月、長期であっても3か月から半年が一般的です。さらに派遣は、同一の部署での業務は3年までという法律もありますが、在籍出向の場合は3年以上でも問題ありません。

給料を支払う会社も、在籍出向の場合は出向元、出向先、どちらが従業員に振り込むのかは出向契約の内容によって違いますが、派遣の場合は派遣先が従業員に振り込むことはありません。必ず派遣元が従業員に振り込むことが決められています。

また、在籍出向の場合は出向先でも正社員ですし、場合によっては役職を持った状態で出向することがありますが、派遣の場合は派遣先で正社員ではありませんし、役職を持たせるということもほとんどありません。表面上は同じでも、仕組みとしては違うことを理解しておいてください。

■在籍出向と派遣を混同してはいけない理由

在籍出向も派遣も自社の社員を他社で働かせることであれば、出向元(もしくは派遣元)としては、どちらのパターンを取ってもいいように思うかもしれませんが、これには混同してはいけない理由があります。

もともと企業には、職業安定法第44条により、労働者供給事業を原則として禁止し、違反すれば罰則の対象となっているからです。この「労働者供給事業」というのが、自社の社員を他社で働かせることを指しています。また在籍出向を行う場合にも注意をしなければいけないのですが、在籍出向を行った見返りを最初の例に挙げていたC社がA社に行ってはいけません。つまり、C社がA社のBさんを貸し出してくれたので、C社がA社に対してお金を支払う行為のことを指します。ただし、C社がBさんに支払うためのお金をA社に渡して、A社がC社から受け取った金額をそのままBさんの口座に振り込む行為は違反に値していません。A社がC社から受け取った金額の一部をBさんの口座に振り込む行為が違反に値するということです。

ですが派遣となれば話は別です。昭和60年に労働者派遣法が制定され、労働者派遣契約を結べばA社のBさんがC社へ派遣で行くことができるようになりました。派遣の場合は、Bさんが働いた分をC社はA社に支払い、A社はC社から受け取った金額の一部をBさんに支払われるということになります。つまり派遣の場合はC社はA社とBさんの両方にお金を支払っているという形です。

このように在籍出向と派遣ではお金の流れも違うため、混同すると違反行為をしてしまう危険があるので気を付けてください。

■さらに問題な在籍出向から派遣を行うこと

在籍出向は違法的な行為ではありませんし、派遣を行うことも違法な行為ではありません。ただ何も知らなかったでは済まされない場合が存在します。それが在籍出向をした先からの派遣です。

例えば、A社に所属していたBさんがC社に在籍出向しました。この時、A社とC社は出向契約を結んでいます。BさんはC社に在籍出向しているので、C社とも労働契約を結んでいるのですが、C社からD社に派遣で行ってほしいと言われた場合、BさんはD社で派遣として働くことになります。この時、C社とD社の間には労働者派遣契約を結んでおり、Bさんは派遣なのでD社とは労働契約を結んでいません。

A社、C社、Bさんの3者だけであれば在籍出向の形、C社、D社、Bさんの3者だけであれば派遣の形をとっているので、一見問題がないようにも見えますが、これは「二重派遣」「二重出向」の規制の脱法的手段に該当し違法となる可能性があるので注意をしましょう。

■在籍出向と派遣を区別して従業員をうまく回す

在籍出向も派遣も行うこと自体は問題ありません。ただ在籍出向の特性や派遣の特性を理解して行う必要はあります。自社の社員に他社で働いてもらうために、自社としてその社員をどうしたいのか、他社に行かせる目的は何なのかということを明確にしておけば、在籍出向と派遣を混同することはないでしょう。

また在籍出向をさせるつもりだったのに、仕組みを勘違いして派遣の流れを一部混ぜてしまうと、労働法に反する行為に当たる場合もあるので十分に気を付けてください。 在籍出向で失敗しないためにも、出向契約や出向させる従業員との打ち合わせも細かく行うことが大切です。ぜひ失敗のない在籍出向を行いましょう。